ブラジルの経済・文化の考察

【古いブログを作り直した】

1.   はじめに

私は2010年から2014年まで仕事の関係でブラジルに滞在していた。その経験を踏まえ、個人的なブラジルの印象を紹介するとすれば、サッカー、高い犯罪率、BRICsの一国として発展、アマゾンに代表される豊富な自然など、一般的に知られている簡単な単語でしか説明できない。しかし、この国に4年間も滞在したのだから、印象だけでなく、もう少し説得力がある説明ができないものか、また、さらに踏み込んで改善点を提案できないかと考え、可能な範囲でデータ収集・加工・考察を行った。各国の主要データを調査した結果、ブラジルの特徴を客観性のあるデータで説明し、今後の発展のために必要なことを考察することができた。データの加工段階で「ソフト環境」という独自の指標を考案したので、この観点からブラジルが改善すべきことを記述する。


2.   データの収集とまとめ方

各国の比較データはインターネットで収集した。それらのデータをどのようにまとめようかと考え、今回採用したのは、「世界がもし100人の村だったら方式」。これが一般的なデータ分析方式として世間で認められているかわからないし、100人(=世界中の国)を公平に評価できているか疑問はあるが、広い分野で総合的な見方をするために、この方法が適当と判断した。とにかくデータを採取し、国ごとの比較をすることで見えてくるものがあると考えた。

データの収集は、まず経済指標として、名目GDP、自動車生産台数、穀物生産量の世界順位をインターネットで調べ、仮に世界が100人の村としたときの順位を計算した。例えば名目GDPは、IMFの統計データ(2018年)では調査対象は193か国中、ブラジルが9位なので、世界を100人の村としたときは5番目になる。さらに、「経済を取り巻く環境、文化指標」(ここではソフト環境と呼ぶ)として、犯罪(殺人)発生率の世界順位を調べ、上記同様、仮に世界が100人としたときの順位を計算した。それを平均してソフト環境の世界順位とした。「ソフト」としたのは、インフラや資源などのハード環境とは別の指標であることを表す意味がある。以下、人の努力に結びつく経済指標とソフト環境に絞って考察を行い、ハード環境の考察は省略する。なお、調査データがない国を含めて世界の国の数(=100人の村の全体)を196か国とした。

今回のデータ評価では各指標の重み付けはしていない。例えば、名目GDPと犯罪発生率のどちらが重要かについては、比較する意味があるかどうかから悩むことになるので(悩んで結論がでそうもないので)、前提として各項目の重要性は同じものとした。


3.   データ調査結果と全体的な傾向

国別の100人中の順位を一覧表(表1)にし、経済指標とソフト指標別に平均値を計算した。順位が60位以下になった項目は色を変えて表示している。これで重点的に改善することが必要な項目を強調した。

1の結果を元に、経済指標を横軸、ソフト環境を縦軸にとり、各国の順位をプロットした(図1)。その結果、全体を3つのグループに分けることができた。ブラジルが属するグループは、経済指標の順位は上位だが、ソフト環境が下位になっている。日本が属するグループは、経済指標もソフト環境も上位に位置している。そして、スウェーデンなどの北欧の国が属するグループの傾向として、経済指標は中位、ソフト環境は上位に位置している。

 

4.   ブラジルの特徴

1の中でブラジルは左上のグループ内に位置しており、他国に比べて経済指標(3.7位)とソフト環境(55.3位)のバランスが悪いことがわかる。言い換えれば、ソフト環境が経済発展に追い付いていない。さらに、ソフト環境の中でも世界順位が60位以下の項目が重要な課題ではないかと考えると、ブラジルの課題は、順位が低い順に①犯罪発生率、②貧富の差、③経済自由度となる。和田昌親編著『ブラジルの流儀―なぜ「21世紀の主役」なのか』でも、「ブラジルに欠点がないわけではない。最大の問題は治安の悪さである。サンパウロの街中では強盗、ひったくりの類は日常茶飯事。(中略)ただ治安の悪さも、単純に貧困層への所得配分が少ないためと思えばあきらめもつく」1)と、治安の悪さと貧困について言及している。

私がブラジルに滞在中も、アパートの別の部屋に空き巣が入ったり、住んでいた町の銀行ATMが強盗に爆破されたりと、犯罪が身近にあることを実感した。

 

5.   ブラジルのソフト環境の改善方法

実態経済に比べてソフト環境の悪い国が、ソフト環境を改善するにはどうしたらいいかを考察した。例えば、南アフリカ、メキシコ、ブラジルの経済指標は世界の中で悪くないが、貧富の差や汚職指数が悪いことから、富の分配が少ないため、本当に貧しい人は犯罪に手を染めなければならないほど貧しいことが理解できる。改善する手段としては、特権階級に有利なルールの見直しを行い、国民全体の生活基盤を改善することが必要である。

ブラジルの相続税について調べると、国際相続手続き代行センターのホームページでは、「ブラジルの相続税は4%、(中略)日本の相続税は最高50%ですから、各種控除を考慮しても、ブラジルの相続税は日本と比べて非常に安いといえるでしょう。特に富裕層にとっては非常に負担は軽いといえます」2)と書かれている。相続税を見直して富の分配を図ることで、ソフト環境を改善することができる。

 

6.   今後の課題

別の視点でも評価したいと考え、国別の児童の教育水準(学力)、労働争議発生数についても調べたが、調査国数が少なかったため、今回は比較できなかった。調査データが増えた際は、さらに多くの視点で問題点を明確にしていきたい。

 

1 主な国の経済指標とソフト環境の順位表

 


1 主な国の経済指標とソフト環境の分布

 

 

参考文献・資料

1)和田昌親編著『ブラジルの流儀―なぜ「21世紀の主役」なのか』中央公論新社 2011225日発行 17ページ

2)国際相続手続き代行センターhttps://www.souzoku110.info/brazil.html 202034日閲覧

3)IMFInternational Monetary Fund2018年データ 202023日閲覧

4)国際自動車工業連合会(OICA2018年データ 202024日閲覧

5)FAOFood and Agriculture Organization2017年データ 202024日閲覧

6)UNODCUnited Nations Office on Drugs and Crime2017年データ 202024日閲覧

7)TITransparency International2019年データ 202024日閲覧

8)CIA - The World Factbook 2008年データ 2010210日閲覧

9)“Democracy Index 2018The Economist Intelligence Unit.  2020210日閲覧

10)“2016 IEF (XLS) table downloadHeritage Foundation.  2020210日閲覧

11)WEFWorld Economic Forum 2019年データ 2020210日閲覧

12)IEP - Global Peace Index2019年データ 2020218日閲覧

13)UNDPUnited Nations Development Programme2018年データ 2020212日閲覧

14)World Economic Forum 2020年データ 2020214日閲覧


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【以下、2013年7月公開したもの】

各種の世界ランキングから、ブラジルの特徴を考察した。

まず経済指標として、GDP、自動車生産台数、穀物生産量の世界順位を代表として調べ、仮に世界が100か国としたときの順位を計算した。

それを平均して経済指標の世界順位とした。

さらに、経済を取り巻く環境、文化指標として、犯罪発生率や教育レベルの世界順位を調べ、上記同様、仮に世界が100か国としたときの順位を計算した。

それを平均して経済を取り巻く環境、文化指標の世界順位とした。

ここでは、経済を取り巻く環境、文化指標を「ソフト環境」と呼ぶことにする。

「ソフト」としたのは、インフラや資源などの「ハード」とは別の指標であることを現すため。

ブラジルの経済指標順位は世界5位だがソフト環境は世界61位で、かなりの乖離がある。

ソフト環境が経済発展に追い付いていないということができる。

ソフト環境の中でも世界順位が75位以下の項目が重要な現状の課題ではないかと考えた。

順位が低い順に①貧富の差、②犯罪発生率、③基礎教育、④労働争議件数、となる。

すぐに全てを改善できるわけではないが、優先順位としては、貧富の差の改善が現実的ではないかと思う。

ブラジルでは現状、相続税がほとんどないが、相続税の取得で少しは貧富の差が少なくなるのではないだろうか?

世界の中のブラジルのレベル(個人的な計算結果)


分類
指標
世界順位
仮に100か国の中の順位
経済指標
GDP
6位
6位
自動車生産台数
7
7
穀物生産量
6
3
平均
5
経済を取り巻く環境、文化指標
(仮に「ソフト環境」と呼ぶ)
犯罪(殺人)発生率
183
92
汚職(腐敗認識指数)
73
40
貧富の差
35
97
民主主義指数
47
28
経済自由度
100
55
基礎教育(児童の学力)
57
88
IT競争力
55
40
平和度指数
83
53
人間開発指数
73
43
多次元貧困指数
63
70
労働争議件数
18
86
男女格差
62
46
平均
61
経済と周辺環境を含めた指標
国際競争力
56
38
潜在競争力
40
80
平均
59



以上、終わり。

カンボジア旅行

カンボジア旅行の記録を紹介する。今回の旅行の目的はカンボジアの遺跡を見ること。 2年連続で海外の遺跡観光をすることになった。カンボジアの遺跡が造られたのは9~13世紀。昨年訪問したメキシコの遺跡は4~11世紀。ほとんど年代が重なるが、少しだけカンボジアの遺跡が新しい。 旅...